Research


線虫C. elegansは, わずか302個の神経細胞(=ニューロン)しかもたず, それぞれの細胞に選択的に遺伝子発現, 除去(RNAi), 細胞死誘導, 蛍光発色できる非常に稀なモデル動物です. このような有用性から, GFPの個体レベルでの発現解析に代表されるように, 近年のノーベル賞も多くC. elegansを用いた発見に授与されています.

たった302個のニューロンしかもたないC. elegansですが, 驚くことに過去の体験(=記憶)に規定された行動を示します. わたしたちは, 特に音波などの力学的な刺激に対する馴化学習・記憶現象に着目し, 研究を行っています. C. elegansは音波などによる媒体の揺れを感じると, これに驚き, 通常, 忌避するように, 後ずさり移動を行います(ムービー1). しかし, 一定時間の音波刺激による馴化トレーニングを行った場合, 刺激に馴れ, これを記憶するので, 24時間後に音波刺激を与えても, 後方への忌避移動距離の顕著な減少もしく消失が見られます(ムービー2). この力学的刺激の馴化学習・記憶現象は記憶の成立, 維持, 忘却まで全ての過程を解析でき, また古くからその行動を支配する神経回路(右図)もわずか10対のニューロンで形成されることが知られているという利点があります.

わたしたちは, この行動実験系を中心に, 新たな行動実験系の確立も目指しており, それらの実験系を用いた解析から, 行動とその可塑的変化の背後に潜む普遍的な物理・化学法則を理解することを目指しています. 利用する手法は幅広く, 従来の行動遺伝学的手法をベースに, 装置やソフトウエア開発による工学的手法, 生化学的手法, 分子イメージングや数理モデル化等の生物物理学的手法, また最近はちょっとしたナノテクノロジーを応用することも試みています(Sugi* et al. PNAS, 2014; Sugi* et al. Anal Sci, 2016; Sugi* et al. Materials, 2018).